本州最北端、青森県下北半島の北東部に広がる東通村。雄大で豊かな自然とともに暮らす人々の営みには、何百年も受け継がれてきた伝統と、未来を見据えた新たな挑戦心が息づいています。その舵取り役を担うのが、畑中稔朗(はたなか としあき)村長です。
2021年に村長に就任し、現在2期目を迎えた畑中村長は、村民一人ひとりの声に耳を傾けながら、持続可能な村づくりを進めています。役場庁舎で行われたインタビューでは、窓の外に広がる緑を背景に、「快(心地よい)暮らし」をキーワードに語られる村長の言葉から、過去を受け継ぎ未来へと橋をかける確かな想いが伝わってきました。

村人プロフィール
畑中 稔朗(はたなか としあき)
東通村長。昭和37年、大間町に生まれ、幼少期に東通村へ転居。村内の小中学校を経て、東通村立目名中学校、青森県立青森東高等学校を卒業。
昭和58年、東通村役場に臨時職員として勤務を開始。農林課、総務課、健康福祉課、教育委員会など幅広い部署で経験を積み、学校給食センター所長や議会事務局長も歴任。長年にわたり村民の暮らしを支える業務に携わる。
令和3年4月に東通村長に就任し、現在2期目。住民と共に「安心して暮らせるまちづくり」を推進している。さらに、東通村グラウンド・ゴルフ協会事務局長を務めるなど、地域活動にも積極的に関わり、持続可能な村づくりに取り組んでいる。
Q1:東通村で暮らしていて、村長ご自身が「これはぜひ自慢したい」と思うものは何でしょうか?

畑中村長
「私が自慢に思っているものは、2つあります。まずは“食”です。東通村には、海からの恵みである海産物、そして東通牛や農産物といった豊かな食材が揃っています。新鮮でおいしいものが身近にあるということは、本当に大きな財産だと思います。
もう1つが“文化”です。たとえば東通村に伝わる能舞は600年もの歴史があり、地域の人々によって今も大切に受け継がれています。こうした伝統文化が現代まで残っているのは奇跡に近いことだと思っていますし、これからも守り続けたいと考えています」
畑中村長
「つまり、東通村の魅力は『食と文化のセット』であると考えています。美味しい食材だけでなく文化があり、文化だけでなく食がある。その両方があるからこそ、この村の暮らし豊かに感じる人も多いのではないでしょうか。これが東通村の自慢です」
Q2:村の中で、外の人にはあまり知られていない“ここだけの話”があれば教えてください。
現在の東通村砂子又地区 提供:東通村役場
畑中村長
「知っている人もいるかもしれませんが、実は役場庁舎は、以前は東通村内にはなく、昭和63年にこの場所へ移転してきました。本州の自治体で役場が他の自治体にあった例は非常に珍しいと思いますが、村政施行100周年の節目にあたり、村の中心をここに形成しようという大きな決断がなされました」
東通村役場開庁時の東通村砂子又地区 提供:東通村役場
畑中村長
「当時の新しい役場庁舎の周辺はまだ何もない場所でした。そこに庁舎を移し、その後は交流センター、保健福祉施設、東通小中学校などが少しずつ整備されてきました。今の東通村の中心が形づくられたのは、まさにその決断があったからです。
この話は村外の方にはあまり知られていないかもしれないと思いましたので、東通村の“今”を理解するうえで、とても大切なエピソードだと思っています」
Q3:日々活動されている中で、「東通村でよかった」と感じる瞬間はどんな時でしょうか?
小田野沢地区の餅つき踊
畑中村長
「東通村には29の集落があり、それぞれに特色があります。海に面した集落、農業が盛んな集落など、食文化や風習も集落ごとに違います。東通村長としては、そうした違いがある中でも、村民の皆さんから『住みやすくなった』『ここに暮らせてよかった』と声をいただく瞬間が、私にとって何よりの喜びです」
買い物支援車わんつCAR 提供:東通村役場
畑中村長
「村としても、買い物難民の方への移動販売や公共交通の代替策など、生活の不便を少しずつ解消する取り組みを行っています。小さな声に耳を傾け、それを施策に反映することが“心地よさ”につながっているのではないでしょうか。今後も足元の課題を一つひとつ解決しながら、住民の皆さんが安心して暮らせる村をつくっていきたいです」
Q4:村長ご自身がこどもの頃に過ごした東通村と、今の村を比べて、変わったと感じるところはどんな点ですか?
畑中村長
「集落ごとに学校があるか、ないかではないでしょうか。私が子どもの頃は、ほとんどの集落に小学校がありました。そして学校の運動会や学芸会は集落全体のイベントで、子どもたちだけでなく大人もお年寄りも参加し、大いに盛り上がったものです。学校はまさに集落の中心でした」
東通村立東通小中学校 提供:東通村役場
畑中村長
「しかし、現在は学校の数が減り、1つに統合されました。その結果、地域と子どもたちとの距離が少し遠くなったように思います。ただ、当時の経験からも、これからは学校を中心とした交流の可能性を検討したいと考えています。たとえば学校行事のリハーサルを地域の方に公開したり、子どもたちと地域の方が一緒に給食を食べたりする取り組みなどです。
昔とは形は変わっても、地域と子どものつながりを大切にする姿勢は変わりません。むしろ今の時代だからこそ、新しい工夫でその関係を強めていく必要があると感じています。」
Q5:これから村をどのようにしていきたいとお考えでしょうか?また、村長ご自身の夢についてもお聞かせください。
東通村消防団員 提供:東通村役場
畑中村長
「今後を考えると、人口減少や空き家、消防団の維持、伝統芸能の継承など、課題は数えきれないほどあります。だからこそ大切なのは“5年後、10年後を見据えること”です。問題が起きてから対応するのでは遅く、先手を打つ必要があります。
たとえば、各地区にあった消防団の再編に取り組むなど、従来のやり方を変える取り組みも考えています。村民の皆さんに安心して暮らしていただけるよう、足元の課題を一つひとつ解決しながら、未来に備えていくこと。それが村長としての使命であり、私自身の夢につながります」
Q6:村の中で「この人はすごい」と思う方はどんな人でしょうか?

畑中村長
「特定の誰かを挙げることは難しいですが、伝統芸能を守り続けている人、漁業や農業に励む人、畜産に取り組む人、そして夢を持って学ぶ子どもたち。みんなそれぞれの場で懸命に頑張っています。その一人ひとりが村を支えており、尊敬に値する存在です。
私にとって東通村は、村民一人ひとりが主役の村です。だからこそ“みんなすごい”という尊敬の気持ちを持ちながら、日々仕事に臨んでいます」
Q7:村長が考える「東通村で一番おいしいもの」は何でしょうか?
畑中村長
「一番を決めるのは難しいですね(笑)。ルール違反かもしれませんが2つ紹介させてください。まず1つ目は、祖母の手打ち蕎麦です。当時はどの家庭でもそばを打っていたのですが、大きな鍋で茹でた打ち立ての蕎麦に、生醤油をかけて食べる。それが最高に美味しかったことを覚えています。
そしてもう1つは、イカの刺身です。特に耳の部分は透明で歯応えがあり、新鮮さをそのまま感じることができます。かつて漁師さんたちが大漁のイカを水揚げし、浜が活気にあふれていた時代の記憶とともに、その味が心に残っています。最近はイカの漁獲量も減っていますので、東通村にイカが来てくれることを願うばかりです」
Q8:東通村で過ごす中で、困っていることや不便に感じることはありますか?
畑中村長
「東通村長としては、世代によって困っていることは違うと考えています。小学生なら文房具屋さんが欲しいと言いますし、大人は交通や買い物の不便さについて聞くことが多いです。高齢者にとっては移動の問題が大きいですし、一方、若者にとっては遊ぶ場所がないと感じるかもしれません。
東通村は自然災害が比較的少ないと考えられる地域ですが、気候変動によってこれからは集中豪雨や台風などのリスクに備える必要があると感じています。繰り返しになりますが、不便さや困りごとは、世代や生活環境によって異なります。だからこそ、それぞれの声を丁寧に拾い上げて対応していくことが、村政にとって一番大切だと思っています」
Q9:最後に「東通村で過ごす魅力」を一言で表すとすると、どんな言葉になりますか?
畑中村長
「私は“快(こころよい)”という字を選びます。自然も文化も人の営みも調和していて、とても心地よい村だからです。もちろん不便さが全くないわけではありませんが、それも含めて快適に暮らせる村であると胸を張って言えます。これからも村民の皆さんが“快”と感じられる村をつくっていきたいと思っています」
まとめ・編集後記
今回の取材の中で何度も出てきたのは“快”という言葉でした。それは便利さや効率だけではなく、人の温もりや文化の力も含めて「快適」と言える暮らしを意味していると思います。地域が抱える課題に真正面から向き合いながらも、未来への希望を語る畑中村長の姿勢に、村を支えるリーダーとしての強い覚悟と意志を感じました。
あなたなら、どんな東通村になると“快”な暮らしになると思いますか?
最後まで記事をご覧いただき、ありがとうございました。





